海外移住すると年金はもらえない?知っておくべき基礎知識
近年、海外移住を検討する人が増えています。海外での生活に憧れを持つ一方で、年金について不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。「海外に移住したら、日本の年金はもらえなくなるの?」「今まで支払ってきた年金保険料はどうなるの?」「海外で年金を受け取るためには、どのような手続きが必要なの?」など、様々な疑問があると思います。結論から言うと、海外に移住しても、日本の年金受給資格がある場合は、原則として年金を受け取ることができます。しかし、年金の種類や移住先の国、加入状況などによって、手続きや注意点が異なります。ここでは、海外移住と年金に関する基本的な知識をわかりやすく解説していきます。これらの情報を参考に、ご自身の状況に合わせて、必要な手続きや準備を進めていきましょう。
海外移住と年金の関係
日本の年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建て構造になっています。国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する義務がある基礎年金です。一方、厚生年金は、会社員や公務員などが加入する年金で、国民年金に上乗せして給付されます。海外に移住する場合、これらの年金がどうなるのか、多くの方が疑問に思うでしょう。結論としては、海外に移住しても、日本の年金受給資格を満たしている場合は、原則として年金を受け取ることができます。つまり、過去に国民年金や厚生年金に加入し、保険料を納めた期間が一定以上ある場合は、海外にいても年金を受け取る権利があるということです。ただし、年金の受給には、請求手続きが必要であり、海外に住んでいる場合は、日本国内に住んでいる場合とは異なる手続きが必要になります。また、海外での居住期間は、年金額の計算に影響を与える場合があります。具体的には、「カラ期間」と呼ばれる扱いになり、年金受給資格期間には算入されるものの、年金額の計算には反映されません。これらの点について、次の項目で詳しく解説していきます。
「カラ期間」とは?
海外移住と年金の関係を理解する上で、重要なのが「カラ期間」という概念です。カラ期間とは、正式には「合算対象期間」と呼ばれ、国民年金の加入義務がない期間(海外在住期間など)のうち、年金の受給資格期間には算入されるものの、年金額の計算には反映されない期間のことを指します。つまり、海外に住んでいた期間は、年金を受け取るための資格を得るための期間としてはカウントされますが、その期間に応じた年金額は増えない、ということです。例えば、20歳から60歳までの40年間、ずっと日本国内に住んで国民年金保険料を納めていれば、満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。しかし、20歳から40歳まで日本で国民年金保険料を納め、40歳から60歳まで海外に移住した場合、年金受給資格はありますが、年金額は20年分の保険料納付期間に基づいて計算されるため、満額の半分程度になります。このように、カラ期間は、年金額に直接影響を与えるため、海外移住を検討する際には、必ず理解しておく必要があります。ただし、後述する国民年金の任意加入制度を利用することで、カラ期間を減らし、将来受け取る年金額を増やすことも可能です。また、日本と社会保障協定を結んでいる国に移住する場合は、カラ期間が年金額に反映される場合もあります。
国民年金の場合:海外移住後の手続きと注意点
国民年金に加入している方が海外移住する場合、所定の手続きを行う必要があります。手続きを怠ると、将来年金を受け取れなくなる可能性や、年金額が減額される可能性があるため、注意が必要です。ここでは、国民年金加入者が海外移住する際の手続きと注意点について、具体的に解説していきます。
海外転出届の提出
海外移住する際には、まず、現在住んでいる市区町村役場に「海外転出届」を提出する必要があります。海外転出届は、1年以上海外に居住する場合に提出するもので、提出期限は、原則として海外に転出する日の14日前から当日までです。海外転出届を提出することで、住民票が除票となり、国民年金の強制加入義務がなくなります。また、国民健康保険の資格も喪失します。海外転出届の提出には、本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)や印鑑などが必要になります。必要なものは、市区町村によって異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。海外転出届を提出せずに海外に移住した場合、住民票が残ったままとなり、国民年金保険料の納付義務が継続します。また、国民健康保険料も請求され続けることになるため、注意が必要です。
国民年金の加入義務はなくなるが、任意加入も可能
海外転出届を提出すると、国民年金の第1号被保険者としての強制加入義務はなくなります。つまり、国民年金保険料を納める義務はなくなります。しかし、海外に住んでいる間も、国民年金に「任意加入」することができます。任意加入とは、国民年金の強制加入対象者ではない人が、自分の意思で国民年金に加入することです。海外に住んでいる日本国籍を持つ20歳以上65歳未満の人は、国民年金に任意加入することができます。任意加入をすることで、海外在住期間を年金の受給資格期間に算入できるだけでなく、年金額を増やすことができます。つまり、前述の「カラ期間」を減らすことができるのです。任意加入の手続きは、日本国内の最終住所地を管轄する年金事務所または市区町村役場で行うことができます。また、日本国内にいる親族などに手続きを委任することも可能です。任意加入の保険料は、日本国内に住んでいる場合と同じ金額で、納付方法は、日本国内の金融機関からの口座振替、またはクレジットカード納付が一般的です。
任意加入のメリット・デメリット
国民年金に任意加入することには、メリットとデメリットがあります。
メリット
- 将来受け取る年金額を増やすことができる
- 海外在住期間中に万が一のことがあった場合、障害基礎年金や遺族基礎年金を受け取ることができる
- 日本に帰国後、国民年金に再加入する際に、未加入期間がないため、老齢基礎年金の受給額が減額されない
デメリット
- 保険料を納め続ける必要がある
- 海外送金の手数料がかかる場合がある
- 為替レートの変動により、保険料の負担額が変わる可能性がある
任意加入するかどうかは、個人の状況や将来設計によって異なります。メリットとデメリットを比較検討し、慎重に判断しましょう。
年金受給中の手続き
すでに国民年金(老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金など)を受給している方が海外移住する場合は、引き続き年金を受け取るための手続きが必要です。具体的には、「年金受給権者 現況届」や「年金受給権者 住所変更届」などの書類を、日本年金機構に提出する必要があります。これらの書類は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。また、海外での年金の受取方法についても、手続きが必要です。海外での受取方法は、大きく分けて「海外送金」と「現地払い」の2つがあります。海外送金は、日本の金融機関から、海外の金融機関の口座に年金を送金する方法です。現地払いは、日本と社会保障協定を結んでいる国の一部で利用できる方法で、現地の金融機関で日本円で年金を受け取ることができます。どちらの方法を選択するかは、移住先の国や、利用する金融機関などによって異なります。詳細は、日本年金機構に問い合わせるか、ウェブサイトで確認しましょう。これらの手続きを怠ると、年金の支払いが一時的に停止されることがあるため、注意が必要です。
厚生年金の場合:海外移住後の手続きと注意点
厚生年金に加入している方が海外移住する場合も、国民年金と同様に、所定の手続きを行う必要があります。手続きを怠ると、将来年金を受け取れなくなる可能性や、年金額が減額される可能性があるため、注意が必要です。ここでは、厚生年金加入者が海外移住する際の手続きと注意点について、具体的に解説していきます。
海外転出届の提出
厚生年金に加入している方が海外移住する場合も、国民年金加入者と同様に、現在住んでいる市区町村役場に「海外転出届」を提出する必要があります。海外転出届は、1年以上海外に居住する場合に提出するもので、提出期限は、原則として海外に転出する日の14日前から当日までです。海外転出届を提出することで、住民票が除票となります。海外転出届の提出には、本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)や印鑑などが必要になります。必要なものは、市区町村によって異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
厚生年金の加入資格は喪失
海外転出届を提出すると、日本の住民ではなくなるため、厚生年金の加入資格を喪失します。つまり、厚生年金保険料を納める必要はなくなります。ただし、海外移住前に厚生年金に加入していた期間は、将来の年金受給資格や年金額の計算に反映されます。海外に移住したからといって、それまで納めてきた厚生年金保険料が無駄になるわけではありません。なお、海外移住後も日本の会社に籍を残したまま、海外の支店などで勤務する場合は、厚生年金の加入が継続される場合があります。この場合は、引き続き厚生年金保険料を納める必要があります。詳細は、勤務先の会社に確認しましょう。
年金受給中の手続き
すでに厚生年金(老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金など)を受給している方が海外移住する場合は、引き続き年金を受け取るための手続きが必要です。国民年金の場合と同様に、「年金受給権者 現況届」や「年金受給権者 住所変更届」などの書類を、日本年金機構に提出する必要があります。これらの書類は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。また、海外での年金の受取方法についても、手続きが必要です。海外での受取方法は、大きく分けて「海外送金」と「現地払い」の2つがあります。海外送金は、日本の金融機関から、海外の金融機関の口座に年金を送金する方法です。現地払いは、日本と社会保障協定を結んでいる国の一部で利用できる方法で、現地の金融機関で日本円で年金を受け取ることができます。どちらの方法を選択するかは、移住先の国や、利用する金融機関などによって異なります。詳細は、日本年金機構に問い合わせるか、ウェブサイトで確認しましょう。これらの手続きを怠ると、年金の支払いが一時的に停止されることがあるため、注意が必要です。また、海外で年金を受け取る場合は、為替レートの変動によって、受け取る金額が変わる可能性があることにも留意しておきましょう。
海外移住先で年金を受け取る方法
海外移住後も日本の年金を受け取るためには、所定の手続きが必要です。年金の受取方法は、大きく分けて「海外送金」と「現地払い」の2つがあります。どちらの方法を選択するかは、移住先の国や、利用する金融機関などによって異なります。ここでは、それぞれの受取方法について、詳しく解説していきます。
海外送金
海外送金は、日本の金融機関から、海外の金融機関の口座に年金を送金してもらう方法です。多くの国で利用できる、一般的な方法です。海外送金を利用するためには、まず、日本年金機構に「年金の支払を受ける者に関する事項」などの書類を提出し、海外の金融機関の口座情報を登録する必要があります。書類は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。書類を提出する際には、海外の金融機関の口座情報(銀行名、支店名、口座番号、SWIFTコードなど)を正確に記入する必要があります。口座情報に誤りがあると、年金が正しく送金されない可能性があるため、注意が必要です。海外送金の場合、送金手数料がかかります。送金手数料は、金融機関によって異なりますが、1回あたり数千円程度が一般的です。また、為替レートの変動によって、受け取る金額が変わる可能性があります。為替レートが良い時に送金することで、より多くの現地通貨を受け取ることができますが、逆に、為替レートが悪い時に送金すると、受け取る金額が減ってしまうこともあります。海外送金を利用する際には、送金手数料や為替レートの変動について、事前にしっかりと確認しておきましょう。
現地払い
現地払いとは、日本と社会保障協定を結んでいる国の一部で利用できる方法で、現地の金融機関で日本円で年金を受け取ることができます。現地払いのメリットは、海外送金の手数料がかからないことや、為替レートの変動の影響を受けないことです。ただし、現地払いを利用できる国は限られています。2023年10月現在、現地払いを利用できる国は、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルクです。これらの国に移住する場合は、現地払いを利用できるかどうか、事前に日本年金機構に確認しておきましょう。現地払いを利用するためには、日本年金機構に「年金の支払を受ける者に関する事項」などの書類を提出し、現地の金融機関の口座情報を登録する必要があります。書類は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。現地払いの場合、年金は日本円で支払われますが、受け取りの際に、現地通貨に両替することも可能です。
必要書類
海外で年金を受け取るためには、以下の書類を日本年金機構に提出する必要があります。
- 年金受給権者現況届: 年金受給者の生存確認のための書類です。毎年、誕生月の末日までに提出する必要があります。
- 年金受給権者住所変更届: 海外に移住した際に、住所変更を届け出るための書類です。
- 年金の支払を受ける者に関する事項: 海外送金または現地払いを利用する際に、金融機関の口座情報などを登録するための書類です。
これらの書類は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。また、日本年金機構から郵送で送られてくる場合もあります。書類を提出する際には、必要事項を正確に記入し、署名・捺印をする必要があります。また、添付書類が必要な場合もあります。例えば、「年金受給権者現況届」には、現地の日本大使館や領事館で発行される在留証明書、または、現地の公証人による証明などを添付する必要があります。必要書類や添付書類は、年金の種類や移住先の国によって異なる場合があるため、事前に日本年金機構に確認しておきましょう。書類に不備があると、年金の支払いが遅れたり、停止されたりする可能性があるため、注意が必要です。
社会保障協定について
海外で働く場合や、海外に移住する場合、日本の年金制度と移住先の国の年金制度の両方に加入しなければならない場合があります。これにより、保険料の二重払いや、年金受給資格に必要な加入期間を満たせない、といった問題が生じる可能性があります。このような問題を解決するために、日本は、いくつかの国と「社会保障協定」を結んでいます。社会保障協定は、年金制度の二重加入を防止し、年金受給資格の確立を促進するための国際的な協定です。ここでは、社会保障協定の概要とメリット、そして、日本が社会保障協定を結んでいる国について解説していきます。
社会保障協定とは
社会保障協定とは、二国間で社会保障制度(年金、医療保険など)の適用関係を調整し、保険料の二重負担や年金受給資格の問題を解消するための国際協定です。社会保障協定には、主に以下の2つの目的があります。
- 保険料の二重負担防止: 相手国で就労する場合、原則として、就労する国の社会保障制度にのみ加入し、もう一方の国の制度への加入は免除されます。これにより、保険料の二重払いを防ぐことができます。
- 年金受給資格の確立: 相手国での就労期間を、自国の年金制度に加入していた期間とみなして、年金受給資格を計算することができます。これにより、両国の年金制度に加入していた期間が短い場合でも、年金を受給できる可能性が高まります。
社会保障協定の内容は、協定を結んでいる国によって異なります。詳細については、日本年金機構のウェブサイトや、厚生労働省のウェブサイトで確認するか、年金事務所に問い合わせましょう。
社会保障協定締結国一覧
日本は、2023年10月現在、以下の国と社会保障協定を結んでいます。(発効順、カッコ内は発効年月日)
- ドイツ (2000年2月1日)
- イギリス (2001年2月1日)
- 韓国 (2005年4月1日)
- アメリカ (2005年10月1日)
- ベルギー (2007年1月1日)
- フランス (2007年6月1日)
- カナダ (2008年3月1日)
- オーストラリア (2009年1月1日)
- オランダ (2009年3月1日)
- チェコ (2009年6月1日)
- スペイン (2010年12月1日)
- アイルランド (2010年12月1日)
- ブラジル (2012年3月1日)
- スイス (2012年3月1日)
- ハンガリー (2014年1月1日)
- インド (2016年10月1日)
- ルクセンブルク (2017年8月1日)
- フィリピン(2018年8月1日)
- スロバキア(2019年6月1日)
- 中国(2019年9月1日)
- フィンランド(2022年2月1日)
- セルビア(2022年9月1日)
※社会保障協定の内容や対象となる制度は、国によって異なります。最新の情報や詳細については、必ず厚生労働省のホームページや日本年金機構のホームページなどで確認してください。
これらの国々に移住する場合は、社会保障協定に基づいて、年金制度の適用関係が調整されます。例えば、ドイツに5年間、日本で20年間厚生年金に加入していた場合、ドイツの年金受給資格期間(通常5年)を満たしているため、ドイツの年金を受け取ることができます。また、日本の年金受給資格期間(通常10年)も満たしているため、日本の年金も受け取ることができます。このように、社会保障協定は、海外移住者の年金受給をサポートする、非常に重要な制度です。移住前に、必ず社会保障協定の内容を確認し、必要な手続きを行いましょう。
まとめ:海外移住と年金、専門家への相談も検討を
海外移住と年金に関する手続きや注意点について解説してきました。海外に移住しても、日本の年金受給資格がある場合は、原則として年金を受け取ることができます。しかし、年金の種類(国民年金、厚生年金)や移住先の国、加入状況などによって、手続きや注意点が異なります。また、日本と社会保障協定を結んでいる国に移住する場合は、年金制度について特別な取り決めがあるため、事前にしっかりと確認しておく必要があります。海外転出届の提出、国民年金の任意加入、年金受給中の手続き、海外での年金受取方法など、様々な手続きが必要となります。これらの手続きは、複雑でわかりにくい場合も多いため、自分だけで判断せず、年金事務所や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は、個別の状況に合わせて、適切なアドバイスやサポートをしてくれます。また、日本年金機構のウェブサイトや、厚生労働省のウェブサイトでも、海外移住と年金に関する情報を確認することができます。海外移住は、人生における大きな転機です。年金に関する手続きをしっかりと行い、安心して新生活をスタートさせましょう。そして、海外での生活を充実したものにするためにも、年金制度について正しい知識を持ち、将来の生活設計に役立ててください。